夜想曲集
夜想曲集

カズオ・イシグロの「夜想曲集」を読みました。

これは、「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」と言う副題が付いているように、彼の最新作、五つの物語からなる短編集です。
僕は、前作「私を離さないで」で,初めて彼の作品を読んだのですが、そのときは興味深い作品とは思いながら、全く個人的な理由でうまく作品に入り込むことが出来ませんでした。

今回は、音楽又は音楽家をテーマとした短編と言うことで、十分楽しむことが出来ました。
ベネチア、ロンドン、モールバンヒルズ、ハリウッド、最期に又イタリアの小さな町と舞台を換えながら、売れない若いミュージシャン、引退した老音楽家等を主人公にして、思いがけないストーリーが展開してゆきます。

それぞれに自分の才能を信じながらも、先のわからない不安定な音楽家の立場と、これまた先のわからない男と女の関係が、微妙に絡み合いながら、五つの話が展開してゆきます。
僕が気に入ったのは、最期に出てくる、イタリアの町の広場で展開される、若いチェリストの話。
イタリアの町と言えば広場。広場に面したカフェで演奏するミュージシャンという設定が、目に浮かぶようでとてもいい。
東欧から、イタリアにやってきた主人公は、自分の才能を信じているけれども同時にこの先どうなるのかと言う不安を抱えている。そんな彼の前に、高級ホテルのスウィートに長期滞在している、自称チェロの大家の女性が現れて、彼はレッスンを受けるようになると言う話です。本当に彼女はチェロの大家なのかと言う疑問を引きずりながら話は展開して行き、チェリストとしての彼の将来がどうなるのか、判断を読者に委ねるような形で話は終わります。
どの話も、短編として、切れの良い作品になっていて、読後にいつまでも余韻が残るところがあります。

カズオ・イシグロという人は、日本人ですが、長くロンドンに住んでいて、英語で小説を書いています。丁度、リービ英雄がアメリカ人でありながら日本に住んで、日本語で小説を書いているのに似ていると言えます。ただ、リービ英雄は、あくまでも自分はアメリカ人であり、越境者として、日本で日本語で書くということにこだわっているのに対して、イシグロには、日本人であると言うこだわりは全くありません。たまたま日本人として生まれていると言うだけで、英語でイギリス人のように書くということに、不自然さを感じていないように思えます。
Posted by kozyken
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