サーカスの息子
サーカスの息子

ジョン・アーヴィングの「サーカスの息子」を読みました。

いつものように、長大な小説で、しかも今回はインドが舞台、主人公もインド人と言う設定です。
主人公を含めて、この話に出てくる人々は、自分のアイデンティティーを見つけられない、又は自分がどこに所属しているのか自信が持てないように思えます。
主人公のファルークは、裕福なインド人の医者で、現在はカナダに住んでいます。そして何年に一度かボンベイの障害を持った子供の為の施設へ仕事に来るのですが、すでに自分がインドと言う国を理解できなくなっていると感じています。しかし、カナダでは、自分は異邦人であると感じてしまう。自分の所属する場所はどこにもないと感じているわけです。
しかも、彼は医師であると同時に匿名で「ダー警部シリーズ」と言う大衆向けの映画の脚本を書いています。これは大当たりを取っているシリーズなのですが、自分は文学作品が書けないことにも悩んでいます。
ダー警部を演ずる俳優は、ファルークの義理の息子ジョン・デー。彼も普段はスイスに住んで、舞台俳優として活躍しているけれど、インドでは通俗的な映画に出ることで、やはりアイデンティティーを見つけられないでいる。
さらに、連続殺人犯で、かっては男で今はドガー夫人に納まっているラフル、ジョン・デーの双子の弟マーテル、本物の警部パテル、足を象に潰された乞食の少年ガネーシャ、少女売春婦のマドゥ等等、個性的で不思議な登場人物たちが次々と登場して、そこから奇想天外な話が次から次へと続いてゆきます。

アーヴィングは、これまたいつものように、物語の細部をこれでもか、これでもかと言うほど延々と書き込んでゆくので、初めの内、読み手はうんざりしてくるのですが、やがてそのディテールが物語にリアリティーをもたらしてくるのです。
いつの間にか、ファルークもジョン・デーも古くからの自分の知り合いのように思えてくるから不思議です。

物語は最後に、雪の降るトロントの街角、今までと打って変わって、しっとりとしたきれいな場面で終ります。
もうインドには戻らないと決心したファルークは、そこで自分が属している世界がなんだったのか、初めて気がつくのです。
想像力の旺盛なファルークは、自分が属しているのはインドでもカナダでもなく、想像の世界、映画やサーカスの世界なのだということに。
Posted by kozyken
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