春の戴冠
春の戴冠

辻邦生の長編小説「春の戴冠」を読み終わりました。

これは、15世紀後半のフィレンツェ(本では古い呼び方のフィオレンツァが使われている)を舞台に、サンドロ・ポティチェルリの思い出を、親友の古典学者、フェディゴが回顧録という形式で書き綴るという形をとっています。
同時に、コシモ・デ・メディチが基礎を作り、ロレンツ・デ・メディチの時代に花咲いたフィレンツェがやがて、衰退の兆しを見せ、サボナローラの狂信的な運動に巻き込まれてゆく歴史を描いた、文字通りの大河小説でもあります。

ポティチェルリの「春」「ビーナスの誕生」は誰でも知っている名画ですが、僕は実物を見るまで、なんとなく甘ったるいきれいなだけの絵だと思っていました。ところが、ずいぶん昔に、ウフィツィで初めてこの絵を見たとき、美術全集で見るのとあまりに違うので驚いた覚えがあります。実際の絵は、美しいだけでなく、意外と陰があって深みのある絵でした。
そんな印象がどこから来るのか、長い間疑問に思っていたものですが、この本を読んでその理由が初めてわかりました。
ポティテェルリは、同時代の画家には珍しく、ここにも出てくるプラトン・アカデミアを主宰していたギリシャ古典学者のフィッチーノに傾倒して、絵画の裏にあるものの本質をどのように表現するかについて、ずいぶん悩んだ人のようです。その結果、次第にサボナローラの思想にのめりこんで、晩年には全く絵を描かなくなってしまうのですが。

この小説のもうひとつの主題は、ルネッサンスというローマ・ギリシャの古典主義と、中世的キリスト教世界の対立にあります。
そのことは、ロレンツォとサボナローラの対話の中に的確に描かれているのですが、多神教的な人間のすべてを包容する世界と、一神教の厳格でかたくなな世界といってもよいと思います。
この辺は、辻邦生の有名な小説「背教者ユリアヌス」を彷彿とさせるものがあります。

分厚い文庫本が4巻まである長い小説で、読むのみ時間がかかりましたが、読み応えのある作品で、ルネッサンスの歴史、美術に関心のある人には是非お勧めの本だと思います。
Posted by kozyken
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