「ノラや」―内田百閒」
ノラや

内田百閒の「ノラや」は、百閒の家に迷い込んできてそのまま飼うことになった猫が、1年半ほど後に突然行方不明になったときの話しです。

内田百閒と言う人は、不思議な人です。猫がいなくなっただけで、これほど狼狽する人もいないのではないか。
その日から夜も寝られず、食事はのどを通らず、風呂に入ることもしないで、ノラのことを思い出しては、声をあげて泣いていたと言うのですから。
僕も猫が好きで、去年、17年間一緒に暮らしていた猫が亡くなった時は相当落ち込んだ経験があるので、気持ちはわかりますが、でも、百閒のうろたえぶりは度を越しています。

百閒の日記や旅の本を読んでいると、いつも自分中心で、頑固、我儘な言いたい放題のように見えますが、それが自分に正直であろうとすることをいつも意識しているようにも思えます。
「ノラや」も猫がいなくなったときの、急に襲ってきたさまざまな感情を、取り繕うことなく正直に表現しているだけなのかもしれません。と考えると、これだけ素直に自分の感情を表現して、しかも文章にして発表できる人は稀有なのではないかと思います。

この本には、ノラが失踪したすぐ後の「ノラや」以外に、その後晩年まで、思い出すたびに書いたノラに関する文章がいくつも含まれています。
ノラがいなくなって10年以上経っても、何かの拍子に「ノラや」と言う言葉が口をついて出ると言う話しには胸を衝かれるものがあります。
我が家の猫はママレード、と言う名前だったのですが、今でも何かの拍子に、口には出さないけれど「ママレード」と頭の中で呼んでいることがあります。

Posted by kozyken
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