シナン
シナン

夢枕獏の小説「シナン」(中公文庫)を読みました。

ミマール・シナン。ご存知でない方が多いかもしれませんが、16世紀トルコの天才的な建築家です。
実はそういう僕も恥ずかしながら、去年イスタンブールへ旅するまではよく知りませんでした。
しかし、イスタンブールの旧市街、金角湾を見下ろす丘の上に建つ、スレイマニエモスクを見たときに言葉で表せない感動を覚えて、この建築家が歴史の中でイタリアの建築家に勝るとも劣らない位置を占めていることに気が付いたのです。

物語は、若きシナンがイエニチェリと言われる、皇帝直属の精鋭軍隊に入り、建築の分野で徐々に頭角を現し、やがて宮廷主席建築家として数々の名作を残してゆく話ですが、最盛期のオスマントルコと聡明な皇帝スレイマン、そして陰謀の渦巻く宮廷の話が複雑に絡み合って、息つく暇も与えずに一気に読ませる面白さがあります。

多分建築に全く興味が無くても十分に面白い本なのですが、夢枕獏がシナンの建築から感じる感覚と、イスラム文化と宗教に対する考え方がしっかりと表現されていて、読み進むうちに読者がシナンの建築について一つのイメージをつかむことが出来るところがとても良いと感じました。

後書きで著者自身がキリスト教とイスラムを比較してこう言っているところがあります。
神について考えるときに、キリスト教徒は人間の形をしたキリストや聖人の像を思い浮かべるだろう。しかし偶像崇拝を禁止されているイスラム教徒は、球体としてイメージするのではないか、それはそのまま宇宙のイメージであり、モスクの丸いドーム屋根に繋がって行くのではないだろうか。

イスタンブールには、オスマントルコが征服する1000年も前にビザンチンの建築家によってつくられた壮大な教会建築、アヤ・ソフィアがあります。僕はイスタンブールでいくつものモスク建築を見ながら、基本的な形がこのアヤ・ソフィアと同じことに疑問を感じていたのですが、この本を読んで納得がゆきました。
アヤ・ソフィアの空間に畏敬の念を感じていた、シナンが長年の研究の末にアヤ・ソフィアを念頭に置いてより普遍的な神に近い空間として考えたのが彼のモスク建築なのです。そしてその後もトルコのモスク建築は偉大なシナンに倣うようになったということなのです。
シナンが本格的にモスクを作るようになるのは50歳を超えてからですが、100歳まで生きて、トルコ中に400を超える建物を作ったそうです。
作中、ベネチアでミケランジェロとシナンが会うシーンがあります。これはフィクションでしょうが、二人は同時代人で同じころにミケランジェロはサンピエトロ寺院の巨大なドームを設計していたことを思うと不思議な感慨に襲われます。

シナンの最高傑作と言われる、イスタンブールのスレイマニエ・モスクについて、僕のHPでも詳しく紹介していますので宜しければそちらも見ていただければと思います。
Posted by kozyken
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