16,
2013

先日のオープンハウスの折、「ののの家」のお施主さんに平凡社の児童百科事典を見せてもらいました。これは1951年から発行された子供向けの百科事典で、今ではめったに手に入らない貴重な本だということです。全部で24巻あります。

その中の「けんちく」という項を開くといかにして設計から施工まで建築が作られるかという説明から、ピラミッドからパルテノン、そして現代建築までの歴史が図版とともに6ぺージ程にわたって、説明されています。子供のころにこれだけ建築とは何かをちゃんと学ぶ機会があれば、大人になってからももっと建築を理解できるようになるのにと、つい考えてしまいました。
これは建築だけでなくすべての項にわたって、本格的な詳細な説明がなされているとのこと。小学生のうちにこの本をしっかり読みこめば、学校へ行く必要がないのではないかと思える内容です。
この本が発行された50年代は、日本がようやく戦後の復興を始めた時期で、戦中の出版物に対する統制、検閲から解放されて、将来にたいする明るい希望が、この本に、そしてこの本を手に取る子供たちに託されているような気がします。
話は変わりますが、僕たちがこの3年間、保存と再生をするよう働きかけている、法政大学の55年館、58年館、そしてすでに解体されてしまった53年館という建物も、この時期に、新しい民主主義の理想に燃えた総長の大内兵衛と、若き理想に燃えた、大江宏という建築家の出会いによって生まれた建築です。今までの学校建築の殻を破ってできたこの建築は、建築家の才能だけではなく、この時代の空気を反映した奇跡だと思うのです。
それは、壊してしまえば、今の時代では作ることのできないものなのです。
日本では、40年、50年の建物を古くなったからと言って、簡単に壊して建て替えてしまいますが、いくら技術が進んでもそれだけでは再現できないものが世の中にはたくさんあります。

子供のころから、そのような何が大事なのかということを教えることが教育なのではないかと、ふと思いました。
そして、この児童百科事典を超える児童百科事典がこの60年間で出てきていないのだそうです。